「ちゃんと分かってあげたいのに、 分からない」 ーそれ、 見る場所が 一つズレてるだけかも

人のこと、ちゃんと分かってあげたい。
なのに、 肝心なところがどうしても見えない。
表情を読もうとしても、声色を気にしてみても
結局は「たぶん、こうかな」っていう当て推量で終わる。
その感じ、僕にもずっとありました。
でもね、最近思うんです。
あれって、こっちの観察力が足りないとか
そういう話じゃないのかもしれない、って。
見てる場所が、ほんの少しだけズレてるだけなんじゃないか、と。
同じことを言ってるはずなのに、 その人だけ違う言葉を選ぶ
人と話してると、ある一つの言葉に
ふっと引っかかる瞬間があるんですよね。
たとえば、何かをやり遂げた人に「どうでした?」って聞く。
たいていの人は「よかったです」とか 「うれしかった」 って言う。
でも、たまにいるんです。
同じ場面で「悪くなかったです」って言う人 が。
文脈がズレてるわけじゃない。
話は自然に流れてる。
ただ、 「よかった」でいいところを、 その人だけ「悪くない」を選んでる。
最初は、まあ言葉の癖だろうな、くらいに思ってました。
でもね。
現場で何人もの人と、何年も向き合ってると、 ある時から分かってくるんです。
あれ、ただ の癖じゃない。
「よかった」じゃなくて「悪くない」を選ぶ
その選び方そのものに、 その人がどう 生きてきたかが、 ぜんぶ入ってる。
「我慢する」って言う人が、見ている世界
たとえば、しんどいことを乗り越えてる人がいるとして。
ある人はそれを「我慢してます」って言う。
別の人は「頑張ってます」。
「踏ん張ってます」って言う 人もいるし
「なんとか乗り切ります」って言う人もいる。
意味としては、まあ、ほとんど同じなん ですよ。
でも、選ぶ言葉が違うと
その人が今どんな構えで世界を見てるかが、 透けて見える。
「我慢する」を選ぶ人は、 たぶんしんどさを自分の中に
閉じ込めて処理してきた時間が、長い人。
外に出していいんだって、思えてこなかったのかもしれない。
「頑張る」を選ぶ人は、しんどさを目標に向かうための
燃料に変えられる回路を、もともと持ってる。
「乗り切る」を選ぶ人は、 その場面を、通り過ぎる点として見てる。
終わりがある、 って信じてるんですよね。
どの言葉にも、その人にそれを選ばせてきた時間が、積み重なってる。
これ、その人の性格がどうこう、って話じゃないんです。
世界がその人にどう見えてきたか、の話 で。
それが、たった一つの言葉の選び方に、 ぎゅっと畳み込まれてる。
表情は作れる。 でも、 選ぶ言葉まではたぶん作れない
人を見る、って言ったとき。
何を見てるかって、 人によってけっこう違うんですよね。
表情を見てる人がいる。
声のトーンを聞いてる人がいる。
仕草を見てる人もいる。
これ、全部ちゃん とした観察なんです。
相手をよく見ようとしてる人ほど、こういうところを拾ってる。
ただね。
表情も声も仕草も、本人が「こう見せたい」 である程度は作れちゃうんですよ。
笑顔だっ て、その気になれば作れる。
でも、言葉の選び方までは、そこまで器用には制御できない。
足の小指をタンスにぶつけた瞬間に出る声、 ありますよね。
「痛っ」て言う人、 「うっ」て言う人、ま あ「くそっ」て言う人もいる。
あれ、選んでないですよね。
勝手に出てる。
普段その人が選ぶ言葉 も、実は、あれにけっこう近いんです。
……いや、「表情は嘘で、言葉が本当」って言いたいわけじゃないんですよ。
表情だって本物です。
ただ、言葉のほうが、 もう一段だけ奥から
本人も気づかないところから出てくる。
それだけの話で。
だから、相手をもっと細かく見たいなら。
表情の前に、 その人がどの言葉を選んだか を聞いてみるほうが
案外早かったりするんです。
その一言を拾うには、こっちが黙るしかないんですよね
ただ、これがね、 思ってるより難しいんです。
だって、こっちが喋ってる間は、 相手の言葉って、聞こえないんですよ。
人と話してるとき、 僕らってたいてい、 次に自分が何を言うかを考えてる。
じゃなかったら、 相手の 話を頭の中で要約してる。
どっちにしても、相手が選んだその一語は、流れて消えていく。
意味だけざっくり拾って、「どの言葉を使ったか」は、もう残ってないんです。
だから、ほんの少しだけ、 自分の中の段取りを止める。
次に何を言おうかも、 要約も、
いったん横に 置いて相手が選んだ言葉を、そのまま聞く。
まあ、慣れるまでは難しいです。
でも、これができるようになると、 見えてくるものがあるんですよ。
いつもの口癖がふっとズレた時、その人は動いてる
同じ人と長く向き合ってるとその人が
よく使う言葉のパターンがだんだん分かってくる。
そうするとね、その人が変わった瞬間が、 見えるようになるんです。
ずっと「我慢してます」って言ってた人が
ある日 「踏ん張ってます」って言う。
ずっと 「悪くないです」しか言わなかった人が
ふっと 「ちょっと楽しかった」って言う。
話の流れの中だと、ほんの 些細な揺れにしか見えない。
でも、
選ぶ言葉が変わったってことはその人の世界の見え方が一段 ズレた
ってことなんですよね。
で、これがね。
表情が変わるより、 先に出るんです。
本人が 「あ、 自分、変わったな」って
気づくより前に言葉のほうが、 先に教えてくれる。
逆もあります。
ずっと 「頑張ります」って言ってた人が
ある日 「我慢します」 って言う。
本人はまだ「自分は大丈夫」って思ってる。
でも、言葉だけが先に、しんどさを漏らしてるんです。
そういう時に、ふっと声をかけられる。
「最近、 どう?」 って。
本人がまだ気づいてないサインに、こ っちが先に気づけるから。
その人がほんとに沈み込んでしまう前に、隣に立てるんですよ。
裏を読まなくていい。 その一言を、そのまま受け取る
「言葉の裏を読め」とか 「行間を読め」とか、よく言いますよね。
僕、 あれ、 ちょっと違うなって思うことがあるんです。
裏を読もうとすると、 結局、 こっちの想像が混ざってくる。
「この人、こう言ってるけど、ほんとはこう思ってるはずだ」って。
でもそれって、もう相手じゃなくて、 自分の頭の中を見てるんですよね。
行間に何かが隠れてる、っていうより。
本人ですら気づいてない時間が
その人の選んだ一語にただ乗っかってるだけなんです。
隠してるんじゃない。
本人も、知らない。
だから、裏を探しに行かなくていいんです。
表に、 ちゃんと出てる。
その人が選んだ、 その一言の中に。
雨が止んでるのに、濡れた傘をまだ握りしめて歩いてる人がいる。
その傘を見れば、 さっきまで降っ てたことが、分かりますよね。
言葉も、 それと同じで。
今その人が選ぶ一語に、 その人が通り抜けて きた天気が、ぜんぶ残ってる。
その一語に、その人が生きてきた時間が、まるっと入ってる。
それを、裏返さずに、 そのまま受け取る。
たぶん、それでいいんだと思うんです。
行間を読むより、 選んだその一言を、 ただ細かく見てみる。
それだけで、 人ってずいぶん、見えてくるんですよ。
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