「正論なのに伝わらない」のは、 話し方じゃなくて時間の問題かもしれ ない

正しいことを言ってるはずなのに、なぜか相手に届かない。
そういう時、人はつい 「自分の言い方が悪かったのかな」って
考えてしまうと思うんです。
でもね、たぶんそこじゃない。
正しいことを言ったのに、 スッと流された日のこと
この前、ある打ち合わせの席で、
ひとりの人がすごく真っ当なことを言ったんです。
筋も通ってる し、中身も正しい。
横で聞いてて、僕も「そうだよなあ」と思った。
でも、言われた相手はあんまりピンと来てない顔をしていて、
その話はなんとなく宙に浮いたまま、 別の話題に流れていった。
不思議でしたよ。
だって、 間違ったことは何ひとつ言ってないんだから。
正しさで言えば、ほぼ満点に近い。
なのに、相手の中には何も残らなかった。
こういう場面って、た ぶん誰でも一度は見たことがあると思うんです。
自分が言う側だったこともあれば、 流す側だったこともある。
同じ言葉でも、 “あの人が言うと”通る
面白いのはね、 その同じ内容を、しばらくして別の人が口にした時のことです。
ほとんど同じことを言ってるのに、今度は相手がうなずいた。
「ああ、確かにそうかもしれない」って、すっと受け取った。
中身は変わってない。変わったのは、 誰が言ったか。
それだけ。
これ、何度か見ていると、だんだん見えてくるものがあって。
言葉が効くかどうかって、その言葉が 正しいかどうかとは、
わりと別のところで決まってるんじゃないか、って思うんですよね。
言葉の重さは、たぶん中身で決まっていない
たとえば「あなた、 ちょっと無理してるよ」っていう一言。
これを、ほぼ初対面の人から言われたら、 どうですかね。
内容は当たってるかもしれない。
でも、 心のどこかで「いや、 あなたに何が分かるんですか」って思ってしまう。
同じ言葉を、長いこと自分のことを見てきてくれた友達から言われたら、 どうだろう。
「……やっぱり、そう見えるか」って、わりと素直に受け取れたりする。
中身は一字一句おなじなんです。
違うのは、その人が今まで自分のことをどれだけ見てきたか。
過去 にその人の言葉で助かったことがあるか。
自分の状況を、 どれくらい分かってくれているか。
そういうものが、 相手の中に静かに積もっていて、
その人の言葉に重さを乗せてる。
逆に言うと、その積み重ねが薄い相手の言葉は、
どれだけ正しくても、すっと通り抜けていってしまうんですよね。
それ、伝え方が下手なわけじゃないと思うんです
ここで一回、ちゃんと言っておきたいことがあって。
正論が通らなかった時、
「自分は説明が下手なんだ」
「もっと話し方を磨かないと」って、自分を責め る人がけっこう多い。
でもね、下手なわけじゃないんです。
中身はちゃんと正しい。
足りなかったのは、 内容じゃなくて、
その相手との間に積もっている時間のほうなんです。
これ、けっこう大事なところだと思っていて。
話し方のセンスがない、みたいな生まれつきの問題じゃなくて、
ただ積もっている量が足りないだけ。
量なら、これから増やせる。
じゃあ、 何を積めば言葉は届くのか
で、その「積もる時間」って、何をすれば積もるんだろう、と。
これがね、話し方の練習じゃないんです。
何回も練習して滑らかに喋れるようになっても、相手との 間に時間は積もらない。
話し方だけ磨いて、 まだ何も積もってない相手にズバッと正論をぶつけるのって、
右利きの人に左手 で字を書かせるみたいなものだと思うんです。
書こうとしてる字は、ちゃんと正しい。
でも、出てく る形がぐにゃぐにゃで、読んでもらえない。
積もるのは、もっと地味なほうです。
相手の話を黙って聞いた時間。
相手がしんどそうな時に、ただ横にいた時間。
相手が自分なりに選んだことを、口を出さずに尊重した回数。
それから――これがけっこう効くと思うんですけど――
自分が「こっちが正しい」と思って言ったことが、 あとで間違ってたと分かった時に、
ちゃんと「ごめん、あれは僕が違ってた」って認めた経験。
そういうのが、 一個ずつ相手の中に貯まっていく。
まあ、こう書いてる僕自身、 その 「ごめん」 がいちばん苦手なんですけどね。
地味ですよ。すぐには何も変わらない。
今日ひとつ黙って話を聞いたからって、
明日いきなり言葉が 届くようになるわけじゃない。
でも、それを続けてきた人だけが、
ある時から 「あれ、 最近、自分の言葉が前より通るようになったな」って
感じる瞬間が来るんです。
その人に効く言葉は、自分以外の誰かが持っていることもある
これ、チームとか、 何人かで動いてる場面になると、 もう一段ひろがる話で。
どうしても伝えないといけない、 大事な一言があるとするでしょう。
「今のやり方、 見直したほうが いいよ」とか、
「今の判断は、たぶん間違ってる」とか。
中身は正しい。
でも、誰が言うかで、結果がまるっきり変わる。
ここで、まとめる立場の人がやりがちなのが、
「正しいことなんだから、 自分が言わなきゃ」って、
全部を自分の口で言おうとすることなんです。
でもね、その相手にいちばん効く言葉を持っているのは
案外、 自分じゃなかったりする。
チームの 中に、その人と長く時間を積んできた別の人がいるなら、
その人から伝わったほうが、すっと届くことがある。
だから考えるのは、「正しいことを言える人を増やす」ことじゃなくて、
「この相手には、 誰の言葉な ら届くんだろう」っていう組み合わせのほうなんです。
届く人が今いないなら、 まずその人が時間を積める場をつくる。
遠回りに見えて、これがいちばん安い。
言葉の重みは、結局そこに積もっていく
長くなったので、最後にひとつだけ。
同じ言葉でも、誰から言われるかで効きが変わるのは、
相手の気分の問題でも、こっちの口下手の問題でもないんです。
その人との間に、 どれだけのものが積もってきたか。
ほとんど、それだけで決まってる。
ある内容を相手に言える資格みたいなものは、最初は誰も持ってない。
聞いた時間、横にいた時間、 自分の間違いを認めた経験。
そういうのを一個ずつ重ねて、時間をかけて手に入れていくものなんですよね。
若い頃に言って通らなかった同じ言葉が、ある時期からすっと通るようになる。
あれは、話がうまくなったからじゃない。
それまで積んできた時間が、
ようやくその言葉に重さを乗せてくれた、っていうだけのことだと思う。
言葉の重みは、 中身じゃなくて、その人との間に積もったものの総量で決まる。
だから、伝わらへんなと焦った時こそ、急いで言い方を直さんでもええんです。
その人とまた一個、 時間を積みにいくほうが、結局いちばんの近道やと思います。
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