人によって態度を変えるのは、 相手への優しさかもしれない

「あの人は飾らないよね」
「裏表がなくて、いい人だよね」。
こういう言葉が、 褒め言葉として飛び交う場所があります。
でね、その同じ場所で、
誰かに 「あなたって、 人によって態度がちょっと違うよね」 なんて言われると、
なんだかチクッとくる。
後ろめたい。
「あ、バレてたか」 みたいな気持ちになる。
ずっと、その温度差が気になってたんです。
「あの人、飾らないよね」 が褒め言葉になる場所で
飾らないのが「正解」で、相手によって態度を変えるのが 「ちょっとズルい」。
いつのまにか、そういうことになってる気がします。
だから、 人に合わせて振る舞いを変える自分のことを、
「八方美人なのかな」 「本当の自分が、ないの かな」って、
こっそり責めてる人が多い。
でもね。
僕は、ここがずっと引っかかってました。
本当に、そうなのかな、 って。
素のままで生きてる人に、僕はまだ会えていない
仕事柄、いろんな人と関わってきました。
そのなかで、本当の意味で「素のまま」で人と接してる人を、
僕はまだ一人も見たことがないんです。
ちょっと考えてみてほしいんですけど。
家族と話す時の自分と、 仕事の人と話す時の自分と、
初めて会う人と話す時の自分って、たぶん少し ずつ違いますよね。
声のトーンも、言葉の選び方も、なんとなく変わってる。
それって、別に悪いことじゃない。
人として、ごく当たり前のことだと思うんです。
違うのは、たった一つ。
その「変わってること」 に、 自分で気づいてるかどうか。
おもしろいもので、 「自分は素のままだよ」って言い切る人ほど、
気づいてなかったりするんですよね。
相手で態度を変えるのは、嘘でも演技でもないんです 。
ここで、たぶん多くの人がつまずくところがあります。
「相手によって態度を変えるなんて、嘘ついてるみたいだ」
「演技してるみたいで、 不誠実だ」。
そう感じて、後ろめたくなる。
でもね、演技と、態度を変えることって、別ものなんです。
演技っていうのは、思ってもいないことを、思ってるフリすること。
中身と、外に出すものがズレてる状態。
態度を変えるのは、 そうじゃない。
自分の中にある、 いくつもの本物の顔のうち、
「今、 どれを出すか」を選んでるだけ。
真面目に向き合う自分も、
冗談を言ってふざける自分も、黙って話を聞く自分も、
全部ほんとの自分なんですよ。
無いものを、 あるフリして出すのが、 嘘。
ある中から、今いるものを選ぶのは、嘘じゃない。
……ていうか、こんな偉そうに書いてますけど、僕だって、
疲れた日は気づいたら誰にでも同じテン ションで喋っちゃってますからね。
えらそうに言える立場じゃ、ないんです。
落ち込んでる人に、つい正論を渡してしまう
たとえば、こんなこと、ありませんか。
すごく落ち込んでる人に、よかれと思って「こうすればいいんじゃない?」ってアドバイスをする。
本人は、 親切のつもり。
でも相手は、なんだか浮かない顔で、
「いや、今聞きたいのは、 それじゃなくて……」みたいになる。
逆に、早く答えを出したくて焦ってる人に、やさしい言葉ばかりかけてると、
「で、 結局どうしたら いいの」って顔をされる。
中身が悪いわけじゃないんです。
やさしさも、アドバイスも、ちゃんと本物。
ただ、出すタイミングを、 ちょっと読み違えただけ。
何を出すかを決めるのは、 自分のその時の気分じゃなくて。
目の前の人が、今、何を受け取れる状態にいるか。
それだけなんですよね。
そこを見ずに顔だけ変えても、だいたい外す。
逆に、ちゃんと相手を見てる人は、 自然と、出すものが変わっていくんです。
「今日のあの人、機嫌いいかな」を、相手にさせない
ここからが、たぶん、いちばん大事なところです。
その日の気分や疲れで、出てくる自分がコロコロ変わる人がいます。
本人は 「素のまま」のつもり。
でも、その人と関わる側からすると、これがけっこう大変で。
会うたびに、「今日のこの人、機嫌いいかな」「今日はなんか冷たいな」って、
毎回、 その人の今日の コンディションを探らないといけない。
暗い部屋に入る時のこと、 思い浮かべてみてください。
電気のスイッチがいつも同じ場所にあれば、手は迷わず、すっと伸びる。
でも、入るたびにスイッチ の位置が動いてたら、
毎回、 壁をぺたぺた手探りすることになる。
地味に、 疲れますよね。
自分で気づかないまま揺れてる人は、相手に、
この「手探り」をさせてしまってるんです。
逆に、同じ相手には、いつも同じ顔で接してる人がいる。
すると相手は、 「この人は、いつ会ってもこの人だ」って安心できる。
身構えなくていい。
それは、冷たい話じゃないんです。
むしろ、 相手に「ブレない自分」を渡してるってことだから、
その関係は、ちゃんと深くなっていく。
見せ方を使い分けるのは、たぶん優しさの一形態だ
長くなってきたので、そろそろ。
人は誰でも、相手によって顔が変わる。
違いは、それに気づいて、自分で選んでるか。
気づかないまま、流されてるか。
それだけ。
「自分は素のままだ」 と思い込んでる人ほど、
じつは気づかないうちに揺れてて、
相手を手探りさせ てるのかもしれない。
素のままで人と接してる人なんて、たぶん、どこにもいないんです。
そう考えると、ね。
人によって態度を変えるのは、不誠実なんかじゃない。
それは、目の前の人をちゃんと見て、その人が受け取れるものを選んで、
ブレない自分を渡そうとし てる、ってとなんですよ。
見せ方を使い分けるのは、 結局、 優しさの一形態なんやと思います。
だから、 人によって態度が変わる自分のことを、 そんなに責めんでええんちゃうかな。
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